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AIショートドラマが変える企業動画

目次

本稿で扱う「AIショートドラマ」の定義

AIショートドラマという言葉が指す範囲をはっきりさせる章です。どこまでをAIに任せ、どこからを人が担うのか、その前提となる考え方を整理します。

生成AIでつくる「短い物語」のイメージ

ここでいうAIショートドラマとは、物語の軸やメッセージ、登場人物の関係性といった“骨組み”は人間が決め、映像・音声・音楽などの素材生成を主に生成AIで行う短尺のドラマ動画を指します。

完全にAIに丸投げするのではなく、「何を伝えたいのか」「どんなトーンにしたいのか」といった企画部分を人が設計し、その表現手段として画像・動画・音声の生成AIを使うイメージです。この前提を共有しておくと、後半で扱う活用シーンや制作フローが理解しやすくなります。

すでに登場しているAIドラマの例

AIだけで作られたドラマ作品も、すでに現実に存在します。たとえばAIドラマ『クレマ-バーチャルパティシエ-』は、全編生成AIによるショートドラマとして国際AIアワードで特別賞を受賞しました。作品を手がけた株式会社Cremmaは、自社サイトでバーチャルIP事業の取り組みを紹介しています。

出典:株式会社Cremma 公式サイト

また、飲料メーカーの伊藤園も、生成AIを活用した映像表現に取り組んでいます。特定保健用食品「お~いお茶 カテキン緑茶」では、日本で初めて“AIタレント”を起用したテレビCMを制作し、商品の機能性をAIキャラクターが語りかける形で表現しました。

新作TV-CM「食事の脂肪をスルー」篇は、伊藤園の公式サイト上で動画として公開されており、AIタレントを用いた実際の映像表現を確認できます。

出典:伊藤園公式ニュース「AIタレントを起用した『お~いお茶 カテキン緑茶』のTV-CM第二弾!」

企業動画との距離感

これらの事例は、AIドラマやAIショートドラマが単なる実験段階を超え、実際のブランドコミュニケーションに使われ始めていることを示しています。

エンタメ寄りの作品であっても、表現の枠組みや制作プロセスは企業動画にも応用しやすいものです。企業がAIショートドラマを検討する土台は、すでに整いつつあると言えるでしょう。

なぜ今「AIショートドラマ」なのか

ショートドラマと生成AIが重なった今、この表現がなぜ注目されているのかを背景から追いかけるパートです。市場の動きや技術、制作現場の変化をひと続きの流れとして捉えます。

ショートドラマという手法が先に広がった

まず押さえておきたいのは、生成AIより先に「ショートドラマ広告」という手法が広がっていたことです。企業PRにおけるショートドラマ活用事例をまとめた記事や、成功/失敗要因を語るセミナーも増え、「日常の“あるある”や感情の揺れを物語にして、その中にブランドや商品を登場させる」というスタイルが定着しつつあります。

視聴者は「広告を見せられている」という意識よりも、「短いドラマを一本見た」という体験として受け取ります。この流れがすでにできていたからこそ、生成AIと組み合わさったときにAIショートドラマが自然な発展形として受け入れられやすくなりました。

生成AIが変えたコストとスピード

生成AIは、動画制作のコストとスピードの前提を大きく変えつつあります。国内でも「撮らないTVCM」をテーマに、Sora や Veo3、Runway Gen-3などの動画生成AIを活用した事例が紹介され始めました。

従来なら、ドラマ仕立ての映像を作るにはロケやキャスティング、撮影クルーの手配など多くの準備が必要でした。生成AIを前提にすると、世界観設計やシナリオづくりに時間をかけながらも、ビジュアル面の試作は短時間で複数パターンを出せます。これにより、「一本をじっくり作る」だけでなく、「複数案を出してテストしながら育てる」運用が現実味を帯びてきました。

日本発のAIショートドラマ事例とプラットフォーム

制作現場そのものも変わりつつあります。生成AIを駆使した“港区SFコメディ”として話題になったショートドラマ「サヨナラ港区」は、読売テレビとDMMショートが手掛けるプロジェクトとして発表されました。作品の放送・配信情報は読売テレビのサイトで案内されています。

出典:読売テレビ「サヨナラ港区」作品ページ

また、ショートドラマ制作会社DoFullとサイバーエージェントが共同で、極AIお台場スタジオを活用したショートドラマを制作し、公開1週間でSNS総再生回数2,000万回を突破した事例も報告されています。
制作の詳細は、DoFullのニュースページで確認できます。

出典:株式会社DoFull ニュースページ

さらに、ショートドラマ×AI広告制作を掲げる映像制作会社も登場しています。たとえばMOVIE IMPACTは、「ショートドラマ×AI広告でブランドの物語を届ける」ことを掲げ、企画から撮影・編集・AI生成までを一貫して提供しています。

出典:MOVIE IMPACT「ショートドラマ×AI広告制作」

こうした国内のプレイヤーが増えてきたことも、「今あえてAIショートドラマを検討する意味」を後押ししていると言えるでしょう。

企業にとってのメリットと活用パターン

AIショートドラマを導入すると、従来の企業動画と何が変わるのかを具体的なメリットから見ていく章です。あわせて、どんなシーンで活用しやすいのかもイメージしやすい形で整理します。

一本勝負から「シリーズ前提・テスト前提」へ

従来の実写ドラマ広告は、準備から撮影、編集まで多くの時間とコストが必要でした。そのため、どうしても「一本をじっくり作って終わり」という発想になりがちです。

AIショートドラマの場合、シナリオパターンや絵柄のバリエーションをAIで複数生成し、短期間でいくつかのバージョンを作ってテストすることが現実的になります。反応がよいものに予算を寄せ、シリーズ化して育てていく運用も取りやすくなるでしょう。一本勝負の動画から、試しながら育てるシリーズへと発想を変えられる点は、大きなメリットです。

世界観の自由度と多言語展開

AIショートドラマは、世界観づくりの自由度が高い表現でもあります。グリーンバック撮影とAI背景生成を組み合わせる事例では、実際のロケ地に行かずに印象的な背景を作り込む試みが行われています。

フル生成AIに振り切れば、現実には存在しない街、宇宙空間、未来都市なども比較的低コストで表現できます。ブランドに合った世界観を先に設計し、その上にストーリーを乗せる考え方が取りやすくなるでしょう。

さらに、翻訳AIとAI音声合成、字幕生成ツールを組み合わせれば、同じショートドラマの多言語展開も進めやすくなります。グローバルにサービスを展開する企業であれば、日本語版・英語版・アジア各言語版をまとめて設計することも視野に入ってきます。

具体的な活用シーンのイメージ

活用シーンとしては、認知・話題づくり、サービス理解の促進、採用・カルチャーブランディング、社内教育などが考えられます。

認知や話題づくりでは、TikTok や YouTube ショートを前提に、連載型のショートドラマとして配信する形がイメージしやすいでしょう。あからさまな宣伝よりも、物語の中にブランドや商品を自然に登場させた方が、若い層に受け入れられやすいといった指摘もあります。

サービス理解の面では、よくある課題を抱えた主人公が自社サービスで問題を解決していくストーリーや、ビフォーアフターをドラマ形式で見せる事例紹介コンテンツが有効です。採用やカルチャーでは、社員の日常やオフィスの“あるある”をAIキャラクターに演じさせることで、顔出しのハードルを下げつつ社風を伝えられます。社内教育では、コンプライアンスや情報セキュリティのNG例・OK例をショートドラマにすることで、テキスト資料よりも記憶に残りやすい形で伝えられるでしょう。

制作フローと注意点のポイント

実際にAIショートドラマを作るときの大まかな進め方を、企画から公開までの流れに沿って紹介するパートです。あわせて、法務やブランドの観点で気をつけたいポイントにも触れます。

目的とターゲットを最初に明確化する

最初のステップは、目的とターゲットをはっきりさせることです。誰に見てほしいのか、どの場面で視聴される想定なのか、どんな指標で成功を判断するのかを決めておく必要があります。再生回数だけを見るのか、視聴完了率やサイト流入、指名検索の増加まで追うのかによって、企画の作り方は変わってきます。

ここで社内の関係者と認識を揃えておくと、後から「思っていた動画と違った」というギャップを減らしやすくなります。目的が曖昧なまま制作を進めると、見た目は面白くても事業的な効果が分かりにくい動画になりがちです。

シナリオ作成と生成〜編集の流れ

目的とターゲットが固まったら、対話型AIを使って複数のプロットやセリフ案を出し、人がブランドトーンや伝えたいメッセージに合うものを選びながらシナリオを整えていきます。

続いて、画像生成AIで主要カットのイメージを作り、キャラクターデザインや背景の世界観を固めます。方向性が見えたら、動画生成AIでショットを作成し、編集ツールで構成やテンポ、尺を調整します。音声はAIナレーションやAI音声合成を活用し、BGMや効果音も生成AIツールで用意できます。

最後に、表現・権利・ブランドトーンの観点からチェックを行い、必要に応じて条件を少し変えたバリエーションを複数生成し、SNS広告などで小さくABテストを行う流れが現実的です。国内の事例を見ても、生成AIを活用して短期間・低コストで複数案を試し、数字を見ながら改善していく動きが広がりつつあります。

法務・ブランド面でのリスク管理

一方で、著作権やプライバシー、ディープフェイクに関わるリスクには注意が必要です。中国のAIショートドラマブームでは、学習データの権利や、生成物のコピー問題が大きな懸念として取り上げられています。

企業としてAIコンテンツを扱う場合、権利処理が明確なツールを選ぶこと、実在人物や有名人に酷似したキャラクターを使わないこと、差別的表現やプライバシー侵害を避けるための社内ガイドラインを整えることが欠かせません。

さらに、「AIを使っていること自体を見せたいのか」「あくまで物語として心を動かしたいのか」という軸も重要です。AI表現の“すごさ”だけが前に出ると、「技術的には面白いが心には残らない」という評価になってしまう恐れがあります。どこに重心を置くのかを企画段階で明確にしておくとよいでしょう。

まとめ:まずは一本の“実験用AIドラマ”から

この記事では、AIショートドラマが企業動画にもたらす変化とメリット、制作フローや注意点を解説してきました。

AIショートドラマは、スピードや本数、世界観の自由度、多言語展開のしやすさなど、従来の企業動画とは異なる強みを持っています。その一方で、著作権やプライバシー、ブランドトーン、「AIらしさ」と人間味のバランスといった新しい課題にも向き合う必要があります。

とはいえ、最初から大規模なキャンペーンをAIショートドラマだけで組む必要はありません。まずは目的とターゲットを絞り、1〜数本の“実験用AIドラマ”を作ってみるところから始めるのが現実的です。小さく配信して反応を見て、手応えのある表現や世界観が見えてきたら、シリーズ化や多言語展開を検討する流れが取りやすくなります。

説明中心の企業動画から、物語で伝える企業動画へと一歩踏み出したいとき、生成AIで作るAIショートドラマは有力な選択肢になり得ます。自社のメッセージや世界観を、どのような物語として届けたいのかを考えるきっかけとして、この表現手法を検討してみてください。

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